
「次の制作会社から、今のホームページのデータをもらってくださいと言われた」
そこで今の会社に連絡したら、「データはお渡ししていません」と返ってきた。あるいは、「確認します」のまま返事が来ない。
制作費は払った。毎月の管理費も払っている。それなのに、会社を変えることもできないのだろうか。
もう一度強く言うべきか。でも、ホームページを止められたら困る。次の会社にも、何と説明すればいいか分からない。
この記事は、そんなところで引き継ぎが止まっている方に向けて書いています。
最初にお伝えしたいのは、データを全部もらえなくても、制作会社を変えられる場合はあるということです。
ただし、何も確認せずに解約していいわけではありません。先に確保したいものと、代わりを用意できるものがあります。
うちも、お客様のホームページを他社へ引き継ぐ側になることがあります。その立場から、「何を渡してもらえば、次に進めるのか」を整理します。

まず解約の前に「止まると困るもの」を確認する
データをもらえないと、「今のホームページを全部失う」と感じるかもしれません。
でも、ホームページの引き継ぎには、いくつか別の話が混ざっています。
- 今と同じアドレスを使い続けられるか
- 会社のメールを使い続けられるか
- 原稿や写真、記事などを残せるか
- 今のデザインや仕組みを、そのまま動かせるか
この4つは、まとめて可否が決まるものではありません。
たとえば、今のサイトを動かすプログラムは渡せなくても、ドメインの管理を引き継ぎ、記事を書き出してもらえる場合はあります。
「全部もらえるか」から、「何があれば仕事を止めずに引き継げるか」へ、確認する対象を変えてみてください。
ドメインと会社のメール
ドメインは、example.co.jp のようなホームページの住所です。
同じドメインを使い続けられれば、その住所で新しいサイトを公開できます。まず確認したいのは、登録名義と管理先、更新期限、そして管理を引き継ぐ手続きです。
ここで忘れやすいのがメールです。
info@example.co.jp のようなアドレスを使っていませんか。その場合、ホームページとメールが同じサーバー契約に含まれていることがあります。確認せずに解約すると、メールにも影響が出かねません。
相手には、まずこう聞いてください。
「契約を終了した場合、ホームページと会社のメールは、それぞれいつまで利用できますか」
終了日が分かれば、次の制作会社も移行の段取りを組みやすくなります。
作り直せない記事や業務の記録
何年も更新してきた記事、施工事例、商品情報。予約や注文、会員の情報。
こうしたデータがあるなら、早い段階で書き出せるか確認してください。デザインは作り直せても、過去の記録は同じようには作り直せません。
管理画面に入れる場合も、画面が見えることと、必要なデータをすべて書き出せることは別です。本文だけでなく、画像や添付ファイルまで移せるか、次の制作会社に確認してもらうと確実です。
顧客情報などを含む場合は、渡す範囲と安全な受け渡し方法も合わせて決めます。
「制作費を払ったのに渡してもらえない」のはなぜか
発注する側からすると、ホームページは「お金を払って作ってもらった、自社のもの」です。「データは渡せません」と言われても、納得しにくいと思います。
一方、渡す側が「一式ください」と言われて確認するのは、その中に何が含まれているかです。
うちも他社へ引き継ぐとき、すべてをその場で「はい、渡せます」と答えられるわけではありません。
制作会社自身も借りて使っているものがある
写真素材、フォント、有料テーマ、外部の予約システムなどは、制作会社が利用契約を結んでいることがあります。
その契約によっては、ファイルや利用権をそのまま別の会社へ渡せません。一方で、お客様側で契約し直せば、使い続けられる場合もあります。
確認したいのは、「渡せない」の先です。
何が渡せないのか。なぜ渡せないのか。契約し直すなど、使い続ける方法はあるのか。
そこが分かれば、代わりの素材に差し替えるのか、別のサービスへ移すのかを判断できます。
他社の情報と一緒に管理していることがある
複数のお客様のサイトを、同じサーバーや管理アカウントで運用している場合があります。
その場合、管理アカウントそのものを渡すと、他のお客様の情報まで見えてしまいます。
ただし、アカウントを渡せないことと、自社サイトのデータを取り出せないことは別です。
「サーバーのログイン情報をください」で止まったときは、聞き方を変える余地があります。「当社サイトに必要なデータだけを取り出していただけますか」。
納品するものの範囲が食い違っていることがある
「ホームページ制作一式」という見積もりでも、納品の範囲は契約によって異なります。公開されたサイトまでなのか、編集用のデザインデータやソースコードまで含むのか。
また、制作費を払ったことだけで、著作権が自動的に移るわけではありません。写真をカメラマンに依頼した場合も同様です。著作権の譲渡と、どの範囲で使えるかという利用条件を確認する必要があります。〔参考:文化庁「著作権譲渡契約」〕
ただ、「契約書にソースコードと書いていないから、何も渡してもらえない」と、この段階で諦める必要もありません。見積書、発注時の提案、メールでの合意も集めて、何を依頼していたのかを確認します。
渡す側に事情があっても、説明がなければ発注した側は判断できません。「渡せないものと、その理由を分けて教えてほしい」と求めてよいところです。
手元の資料ではこの3か所を見る
専門用語を全部理解してから連絡する必要はありません。まずは、判断の手がかりになる資料を集めます。
ドメインの契約情報と更新のお知らせ
ドメインを取得したときのメールや、更新のお知らせを探してください。管理サービスの名前、契約者、登録名義、更新期限が手がかりになります。
Whoisなどの登録情報検索も使えますが、非公開設定などで登録者名が表示されない場合があります。検索結果だけで判断せず、契約情報と照らし合わせてください。〔参考:JPRS「公開・開示対象情報一覧」〕
制作会社から更新料を請求されている場合も、それだけで制作会社名義とは限りません。自社名義のドメインを、制作会社が代理で管理している可能性もあります。
知りたいのは、誰が払っているかだけでなく、誰の名義で登録され、誰が管理手続きをできるかです。
契約書・見積書の「納品物」「著作権」「解約」
この3つの言葉を探します。
- 納品物: 何を受け取る契約になっているか
- 著作権・利用許諾: 原稿、写真、デザインなどを、引き継ぎ後も利用・変更できるか
- 解約: いつまでに申し出る必要があり、終了時に何が止まるか
「著作権は制作会社にある」と書かれていても、決められた範囲で利用を続けられることがあります。逆に、著作権を譲り受けていても、第三者の素材や外部サービスには別の条件が付く場合があります。
権利が誰にあるかと、引き継いだ先で何ができるかは、両方確認してください。
毎月の請求書と契約時のメール
請求書に「保守管理費」としか書かれていないなら、その中に何が含まれているか確認します。
サーバー、ドメイン、メール、更新作業、外部サービスの利用料。同じ月額料金でも、中身は会社によって違います。
月額の内訳がなぜ見えにくいのかは、ホームページの保守費用の内訳で分解しました。
契約書が見当たらなければ、当時のメールや提案書も探してください。資料が全部そろわなくても、次の制作会社への相談は始められます。
「一式ください」では進まないときはこう聞く
相手への連絡では、引き継ぎたいものを分けて伝えると、回答してもらう範囲が明確になります。
たとえば、次のような文面です。
ホームページの運用先変更を検討しており、引き継ぎ可能な範囲を確認したく、ご連絡しました。
以下について、それぞれ対応の可否をお知らせいただけますでしょうか。
- 現在のドメインの登録名義・管理先と、管理を引き継ぐための手続き
- 契約終了に伴うホームページ・メールの利用終了日と、メールの移行に必要な対応
- 原稿・画像・記事などのデータの書き出し可否と、引き継ぎ後の利用条件
- サイトを動かすファイル・データベースなどの引き渡し可否
対応できない項目は、その理由と、代替方法の有無もお知らせください。 費用が発生する場合は、作業内容・金額・所要日数を事前にご提示ください。
○月○日までに、まずは確認状況と回答予定日をご連絡いただけますと幸いです。
分からない項目は、そのまま次の制作会社に見せて構いません。必要なデータの形式や範囲は、制作会社同士で確認してもらう方法もあります。
費用を提示された場合は、何の作業にかかる費用かを確認します。データの取り出しや移行作業の費用と、もともと納品対象だったものの引き渡しは、分けて考えたいところです。
返事が来ない場合も準備は進められる
何度連絡しても返事がないと、拒否されているのか、担当者が動けないのかも分かりません。
まずは契約上の連絡先や会社の代表窓口にも連絡し、やり取りと日付を残してください。同時に、次の制作会社には「現時点で受け取れているもの」と「返事がないもの」を共有します。
ドメインの管理先が分かるなら、登録名義や契約資料をもとに、取り得る手続きを問い合わせます。ただし、制作会社から返事がないという理由だけで、管理会社がすぐに移管してくれるわけではありません。
JPドメインで管理先が分からない場合は、登録者などであることの確認を条件に、JPRSへ問い合わせる方法もあります。〔参考:JPRS「JPドメイン名の各種申請について」〕
契約上の引き渡しを拒まれている、名義について争いがあるなどの場合は、契約書と連絡の記録を持って弁護士へ相談してください。
ここでも、権利をめぐる交渉と、新しいサイトの準備は分けて進められます。
全部取り返すか、全部作り直すか。二択にしなくていい
「データがもらえないなら、また最初から制作費を払うしかないのか」
そう考える前に、引き継げる部分を確かめてください。
たとえば、ドメインと原稿・写真を引き継ぎ、サイトの仕組みだけを新しくする。記事データを移し、デザインを作り直す。今のサイトを一時的に動かしながら、段階的に移す。
こうした進め方もあります。
作り直しを検討しやすい場合
会社案内が中心でページ数が少なく、原稿や写真が手元にある。複雑な予約・会員機能などもなく、今のデザインをそのまま残す必要がない。
このような場合は、既存サイトを調べて引き継ぐ費用と、作り直す費用を比較する価値があります。進め方と費用の考え方はコーポレートサイト制作にまとめています。
判断する基準は、作ってから何年たったかだけではありません。残したい内容と機能を、安全に使い続けるために、どちらがどれだけかかるかです。
データの確保を優先したい場合
記事や商品情報が大量にある。予約・注文・会員の記録がある。独自の仕組みが日々の業務を支えている。
この場合は、見た目の作り直しより先に、データや業務の引き継ぎ方法を調べます。
検索から問い合わせを得ているページがある場合も、本文とURLを記録しておきたいところです。同じドメインを使っても、ページのURLや内容を大きく変えれば検索への影響はあり得ます。URLを変える場合は、旧ページから新ページへの転送も含めて計画します。〔参考:Google「サイトを移転する方法」〕
次の制作会社には、「引き継ぐ場合」と「作り直す場合」の両方で、残せるもの、失うもの、費用、期間を説明してもらってください。
比較できれば、データを取り返すためにどこまで時間をかけるかも決めやすくなります。
今日やることは3つで十分です
ここまで読んでも、ドメインの管理先や契約内容が分からないかもしれません。それでも、次の準備はできます。
- 契約書・見積書・直近の請求書を、一つのフォルダに集める。 見つからないものは「不明」と書いておけば大丈夫です。
- 残したいページと、止まると困る機能を書き出す。 「施工事例は全部残したい」「会社のメールは止められない」「予約情報が必要」という書き方で十分です。各ページのURLも控えておきます。
- 上の依頼文を使い、引き継げる範囲と利用終了日を確認する。 すでに次の制作会社が決まっているなら、送る前に必要な項目を確認してもらってください。
自社で保管している原稿や写真の元データも、同じフォルダに集めておくと役立ちます。
画面の記録が必要なら、利用条件を確認したうえで、必要なページをPDFやスクリーンショットで残します。ただし、画面の保存はサイト全体のバックアップにはなりません。また、公開されている写真や文章でも、新しいサイトに再掲載できるかは別に確認が必要です。
全部を理解してからでなくても、「残したいもの」と「今分かっていること」が整理できれば、引き継ぎの相談を始められます。
「何が分からないか分からない」状態でもご相談ください
ホームページのURLと、今の制作会社から届いた返答。まずは、その2つからでも構いません。
契約書や請求書があれば、合わせて見せてください。ログイン情報や顧客データは、最初の問い合わせに添付する必要はありません。
今の資料で分かることと、追加で確認が必要なことを分けます。そのうえで引き継ぎを進めるのか、必要なものを残して作り直すのかを一緒に整理します。
その場で発注を決めていただく必要はありません。
「データを渡してもらえないので、何も進められない」という状態から、次に何を確認すればよいかが分かるところまで。そこからお手伝いします。



